prêt-à-porter

私が関わった人間は全て私の作品である

『自我の芽生え』 vol.2


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私の現在思い出せる中で一番古い自我の芽生えに関する記憶である。
小学校三年生の頃のものだ。
それは突然教室から始まる記憶だ。掃除中。男子はろくに掃除などせず走り回っている。女子は椅子を机に乗せ後ろに運んでいる。その机に寄り掛かり何もしていない男子が一人いた。彼は特に権力も持たず、割と出来損ないの部類に入る男の子だった。子供の頃の強弱、上下関係ははっきりとしているし、とても差別的な事はあなた方もご存知かと思う。しかし彼はそこからのし上がる事になる。のし上がると言っても学級委員長になる訳ではなく、ただ以後発言権を持つ様になる程度ののし上がりだが。

学級委員長が掃除もせずに女子が運んだ机に寄り掛かるその男子に声を掛けた。
掃除しろよ.とかそういった当たり前のものだったと思う。学級委員長は矢張り学級委員長なのだ。私はその頃学級委員長なんて只の名だけで実際に権力を持っている訳でも人間として素晴らしい人間にだけ与えられる訳でもない事を知っていた。只その時の私の役職は学級委員長の次に偉いものだった。これはそんなものとは全く関係のない話だ。

声を掛けられた男子はうるせえよ.と言った。珍しい事だった。学級委員長は誰もが認めるイケメンで、また頭もよくサッカーもうまく背も高く喧嘩も強く、勿論表面的にかもしれないが、矢張り皆のリーダーだった。そんな彼に口答えをしたのだ。その光景を私の様に何かしらの異変を感じ見ていた人間が他にいるかはわからない。そこまで私の記憶には残っていない。
これは私と学級委員長のお話だからだ。
うるせえよ.と言った男子に近寄った学級委員長。すると男の子は胸ぐらをつかみ殴りかかった。私はびっくりした。なにせこのクラスでこの学級委員長に逆らう人間がいるとは思わなかったからだ。そんな光景も私は初めて見た。恐らく学級委員長もそんな光景を初めて見たと思う。その男子の突然の反逆-私はこういうものを革命や正しい反逆だとは決して思わない。例えば権力側が正しい権力の使い方をしているのならそれに対して愚民が反論したり武力で対抗したりするだなんてのはトンチンカンな話だからだ-によって学級委員長はひるみ、泣いた。


革命や反逆はいつも突然あぐらをかいている権力側の人間を襲う。それが正しかろうとそうでなくても。

周りにいた連中らには恐らくここからこの光景が始まっていただろうと思う。殴りかかった男子より体格のいい学級委員長なら喧嘩をしても勝てただろうと思う。まあ勿論喧嘩なんてものは気持ちが折れた方の負けではある。しかし学級委員長は単純な武力闘争で負けたのでは決してなかった。私はそう考えている。

次の瞬間に、あの学級委員長が喧嘩で負けたというニュースはアマゾンの奥地にまで届くように、色んなところに瞬く間に伝わった。同級生だけでなく、先生たちや校長、上級生や下級生…。人々は口々に学級委員長の噂をした。また同時に反撃をした男子の株が上がっていた。

私はとても悲しかった。私は確かに学級委員長ととても仲が良かった。それを差し引いたとしても色々と我慢ならなかった。何故馬鹿な民衆は学級委員長が喧嘩に負けたという所だけに焦点を当て、その人間を再評価するのか、私にはわからなかった。
私は彼の涙が、むしろ正義感の強さである事を知っていた。愚民の中にはホラを吹いたり、誇張した表現やキャッチーな文句で人の心をつかむ広告代理店の様な下衆な人間がいた。私はこの頃からこういう下衆を一番の馬鹿だと思っていた。次にそれをそのまま受け入れる愚民が馬鹿だと思っていた。その次にそれら全てに興味のない人間を馬鹿だと思った。

私はいつだって一民衆だ。しかし私は現場を目撃した。流れを、学級委員長の心情の変化、機微を自分なりに把握している。この解釈があまりにエゴイスティックだと言うのなら仕方ない。私こそが似非広告代理店だ。似非ジャーナリストだ。それならそれで構わない。

でも私には私の正義があって、それは学級委員長のそれとそんなにかわりがないと思う。兎に角私はこういったものに我慢がならなかった。だからといって、それで何か行動を起こしたり、その後学級委員長の肩を叩いてやるというような事も私はしなかった。
あの頃の男の子は-勿論今でもそうだが-プライドで生きているからだ。 

私が今でもずっと人間に対して嫌悪感を抱くものの始まりはここにあると思う。

こういう光景を私は大人になるまでの間、何度も見てきたし、そこで目を背けずに両方の立場に立とうとした。只正しい事をやっている人が周りに理解されないのは癪だ。勿論正しい事をしている様に周りから見えなかったらそれは正しい事ではないのかもしれない。しかしその間違った偏見や差別からではなく、少しでも中立的な立場から民衆がその人間を判断してくれる様になったら.と私は思う。
私のジャーナリスト精神はこんなところから生まれているのかもしれない。 



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