prêt-à-porter

私が関わった人間は全て私の作品である

「嘔吐2011」その2

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私は狭い狭い箱の中で選択肢を思いつくのに精を出していた。私がどれだけ頑張っても何も思い浮かばなかった。耳に入ってくるのは鈴のお経と雑音と無気味な明るい音楽だけだった。MichaelJacksonのDangerousというアルバムを聞いていたのだが、それはマライアキャリーが参加しているからかいつもより私を周りに溶け込むことを許してくれなかったし、その音は私をその場所からそれ以上引き離してもくれなかった。私は音楽を手動で切った。でもそうすると余計に怖くなった。わかった、私はいつも私の世界に浸ることで周りと調和していた事がわかった。キザな言い方をすれば私は周りと調和しない事で、自分の世界に浸ることで周りと調和していたのだ。周りとの調和の為の調和がどれだけ恐ろしい事かを再認識した。私が誕生する瞬間にまで私のレベルを下げることができたとしても私はもう所謂(いわゆる)馬鹿にはなれなかった。浮気をした時点で死ぬと宣言しているように、私が馬鹿になった時は私が死ぬ時だ。それは単に哲学でも思想でも約束でも規律でもない。私のそれはもう悲しいくらいに決定的で楽しいくらいに宿命的なものなのだ。 
鼓動が激しくなり私は私でいる事を諦めそうになった。私はそれでも自分の異変をどうにかして書かなくちゃならないことに駆られて、まるで現場にいる新聞記者のように書けるだけ書いた。それがこの文章である。心と体、脳と指先が繋がらない中私は私でもなく俺でもなく僕でさえもなくなった。ひとりの人間としてそこには存在しなかった。あらゆるもの、人とは明らかに調和のできないXがそこにはいた。Xは悶え苦しみ怖がっていた。天使や悪魔が不安や心地悪さに変わった。動詞が全て形容詞に変わる様な感覚だった。落ち着きもせず落ち着いた様な感覚だった。時計を見ると針が早く走ったり遅く走ったりと緩急をつけていた。そこにはエリックサティのような静かな狂気はなかった。そこにあったものは拳銃と万年筆だけだった。弾と紙はなかった。しかし万年筆にインクは入っていた。私は万年筆の先を右目に向け、銃を心臓に向けた。このままでは時が止まりながら進むようなそんな感覚だった。どうにかして脱したかった。周りがぼやけるでもなく、またハッキリと見える時には人間は妖怪に見え、外の景色が今まで見たことのないような森に変わった。自分自身さえも自分自身かどうか判断がつかないほどだった。 
胸騒ぎがした。私は自分が死ぬことを予感した。後一分で0:00だった。あと一分で私は死ぬ。だがしかし結果として私は死ななかった。周りの妖怪たちは私の異変に全く気づかない。呑気なものだ。私がこんなになっているというのに。落ち着こうとする自分が更に自分を焦らせ、焦らせている自分に気づき、更に選択肢が見えてこない。まだ答えが浮かばない、選択肢すら浮かばないのだ。質問はそこに確実にあるのに何も答えられないのだ。答えに繋がるヒントが何一つ現れないんだ。頭がぼーっとして字は読めるのに理解ができなくなっていた。ただ客観の波だけが、私という海に押し寄せていた。海岸では貝殻ではなく哀しみや懐かしさ、不安やもどかしさが転がっていた。誰もその海には入れなかった。遠くから鈴だけが鳴っている。とても遠かった。距離にすると東京から大阪くらいの距離はあったと思う。 
私はどうにかしてしまったんだ。自己暗示をかけ何とか不安を横切り峠を越えた時、私の前には何者も立っていなかった。変わらない日常だけが私をあざ笑い、まるで何事もなかったかのような表情をしていた。人は妖怪に変わり、ものは人に変わった世界は足音もなく私の前から消え去ってしまった。 
残された帰りの手段の選択肢が現れた。自転車とバスとタクシーだった。どれにも私の左脳と右脳は拒否反応を示した。しかし私は帰らなければならなかった。どれだけ日常の振りをしていても人間やものをもう私は信じられなくなっていた。私は私でさえも信じられなくなっていた。昨日に戻りたいと思った。 
確かなことは一つだった。吐き気がしたのだ。その記憶だけが私には残っていたし、その事からしか何も思い出せない。私は今も吐き気を催しながらこれを書いている。



2011年12月23日06:50

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