prêt-à-porter

私が関わった人間は全て私の作品である

「嘔吐2011」


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初めての感覚だった、または状態だった。側に人がついていてくれなくては何もできない様な、赤子に戻った様な。外から内に入ってくる言葉は全てがメガホンやテープレコーダーやらの何だかを通して聞こえる様に、バイアスや屈折があり私の五感へと届いた。ふと外の景色を見てみるとジェットコースターの様に早く動いていて一つの景色もろくに捉えられなかった。それは視力の悪い近視の人が見る様な背景で全てがぼやけていた。一瞬止まって見えた時には周りの人間らがみな妖怪に見え、私はついにあっさりと鎧を脱がされてしまった。 何だかによってひっぺがされてしまった。
私が普段どれだけの鎧を着て歩いているのかがわかった。とてつもなく重たく、理性や規律で入念に編み込まれた鋼鉄の鎧だった。私はかつてそれを脱いで街を歩いたことがなかった。一旦脱いでしまうと怖くて動けなかった。ぺたんと地べたに座ってしまうように。思った、私はいつもあんな鎧を背負ってるのかと思うととんでもない強さだ。そしてそれは同時にとんでもない弱さだ。 
鎧を抜いでからはどこか遠くから女が私に鈴の音を聞かせてくれた。私は次第に落ち着きを取り戻した。そこは自己暗示と不吉な予感とが隣り合わている世界だった。まだ私の体験した事のない世界。恐らく哲学者や詩人はここにたどり着いていたのだと思える。苦しみと心地悪さと妙な優しさとに包まれながらも私はとうとうここにまで達したんだとカンショウニヒタッタ。 
いつも自然に思い浮かぶ選択肢が全く思い浮かばない。一択ではなくニ択用意されていた。私は迷った。どちらが正解なのか迷いながら時が進み、否応なしに選択を迫られる。そこでは自己の決定などというものはなく、ただ悩んだというものだけが私のアイデンティティや歴史となっていった。 
私は常日頃沢山の選択肢の中から客観と主観との黄金比を見つけ、コンフォタブルなポジションにいられるような選択をすると言ってきたが、実はいつも大正解の選択肢しか思い浮かばなかった。でもそれはいつでも大正解だった。客観と主観の黄金比の選択肢だった。あのような鎧を着て歩いていると経験値が毎秒上がり、選択を強いられた時には大正解しか出せなくなるのだ。 
鎧を脱ぐと赤子に戻り、ゼロの状態になった。選択肢すらも見えなくなった。とても怖かった。誰かに守ってもらう必要があった。 
これを契機に馬鹿になってしまうのではないかとも思った。とても怖かった。馬鹿にだけはなりたくない。19から考える事を始め、こんな状態になったのは初めてだった。何に影響され、何に影響させているのかわからないが、私は相変わらず生きている。 

2011年12月22日17:56


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