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prêt-à-porter

私が関わった人間は全て私の作品である

掌編小説『手紙〜Sorbonne〜』

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僕の記憶が正しければ、君に手紙を書くのはこれで二回目になる筈である。一回目の手紙は、君が側にいて住所を言ってくれたので僕は「茶の本」の一節だけをその手紙に書き、郵便局から投函した。その後に恐らく僕は君を支配したくて--そもそもそんなもので支配なんてできるはずもなく、またそんな勘違いから僕らの関係の破滅は生まれたと言っても過言ではない--住所を知りたくなり住所を教えてくれと頼んだ。後から気付いたのだが、その時に教えてもらった君の住所には部屋番号がなかった。次に会った時に部屋番号までのちゃんとした住所を教えてもらった。しかしその後僕が君に手紙を書くことは一度もなかった。何故なら僕らはよく会っていたし、目を見つめながら話をした。そして合間にはキスもした。今回僕が君に手紙を書くということはある意味で、始まりであり終わりである。今思い出したが、茶の本の一節は「(君と僕は)存在すると同時に存在しない」だった。
 
恐らく君がこの手紙を受け取る時、君は巴里にいるだろう。君は送られてきた先の住所や名前なんか全く見ずに目を瞑り手紙の重さを両手に乗せてはかるだろう。まるで正義の女神テミスがその罪の重さを宗教や人種で判断しない為に目隠しをする様に。次に君は一万円の透かしを見る子供の様に頭より高い位置に手紙を上げ透かし見るだろう。何枚構成なのか、万年筆で書かれたものか鉛筆なのかボールペンなのか、インクは黒いのか青いのか、封筒は銀座の伊東屋のものかどうか、君は隈なくチェックするだろう。ナチス時代のスパイ容疑のかかっているゾルゲの様な要注意人物の手紙を調べ上げるゲシュタポの様に。僕は君のそういう何事に対しても動物とは全く逆のアプローチをするところに好感を抱いていた。君から理性を奪ったらその造形美しか残らない。その後には君はこの手紙をまるで西洋人みたいに鋭い刃物を使い綺麗に開くだろう。猫の心臓を抜き取るのに血一滴垂らさないプロフェッショナルな外科医の様に。そして手紙を手にした瞬間、君は僕のあの時の香水の匂いに気付くだろう。

それ以上この手紙を読む必要はない。


2011年07月31日
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