掌編小説『天使と悪魔』
「人間の中には夜叉がいて、あるいはそれを悪魔と呼ぶべきなのかもしれない。天使と悪魔とでバランスを保ちながら人間は生きている。この瞬間たまたま天使だったり悪魔だったりするだけだ。だから人間とはとても曖昧で、矛盾もする」
「ぢゃ、あなたは今どちらなの? 私はやっぱり悪魔が勝っているのかな?」
少し考え答えを出した。
「基本的に人と接してる時(要するに起きてる最中)はほとんどが天使。それは表層だけの天使なのかもしれないが。私はあまり怒りもしないし実は気も弱い。君は少々悪魔が勝っているね。今日初めて会った私でもわかる。だけどとても弱い悪魔だね。何かがあなたの悪魔行きを邪魔しているようだ。まるで線路の上に石を置いて何かに対して小さな反抗をするように。よって私の完璧なまでの天使は君みたいな弱い悪魔には勝てる。正義が勝つだなんて噓だ。まやかしだ。詐欺だ。大概が強い奴とは悪だ。完璧な悪は完璧な正義に勝つ。元来正義が勝つわけがないんだ」
「私に天使の要素があるとはやはり思えないんです。あなたが天使なのはわかります。厳しい言葉は誰より優しいから、でしょう。でも私は闇を歩いていたいの。そんな場所で天使が生きられるとは思えないの」
「僕は天使だが闇を歩いている。闇とは悪魔のテリトリー。僕はそこで悪魔の仮面を被りいつもびくびくしながら緊張をし周りを仮面の下からキョロキョロ見て、この中の誰が悪魔の仮面を被っているだけの仲間(天使)なのかと探っている。君は『私、悪魔の仮面を被っているのよ』と無邪気に近づいてきたじゃないか。しかし仮面を取った君はまさしく中身も悪魔で、そんな最悪なケースだ。絶体絶命。だから今僕がやらなきゃならないことは違う悪魔に知られないように目の前の君(悪魔)を天使に改宗させることなんだ。でもね、大事なことは悪魔だろうが天使だろうが人間の魅力は変わらないということだよ」
「It's different! あなたが嗅ぎ付けたんでしょ、私の仮面の中の闇を。他の誰にも嗅ぎ分けられなかった匂い。私のこの心臓や肺や肝臓や小腸や膀胱やヘモグロビンから白と赤の血球にまでこびりついている匂いを。あなたが私を改宗させてくれるって? そんなことができるの?」
「どうだろうな。あるいは、私なら出来るのかもしれない。しかし不思議なものだ、確かにあなたは悪魔の仮面を被っている。しかし先程あなたが仮面を脱いだ時一瞬天使のように見えたのだ。ファーストインスピレーションとは恐いものだ。たった、たったの二秒でだ。その『人間』を決定してしまう。それも数十年話し込むよりも数倍深く決定的に決め込んでしまう。唯一、脳や感覚、野生が理性の入り込む余地なしに大手を振って歩ける瞬間なのだろう。いやしかし、実際のところ本当は君も天使になりたいんじゃないのか?」
「わからないです。いや、わからないです。偽善はいや。そんなことをするくらいなら傷つけて睨まれるほうがいい。だから、わからないです」
「交渉決裂なのかな。それでも僕はいつまでも君を離さない、天使に改宗させるまでは。これは僕の生き死にだからね。僕は偽善者なのかな。僕にはわからない」
「ねえ、お兄さん。いつの間にかあなたは私の大事なものになってる。たぶんあなたがいなきゃ私は今立っていられない。別に病んでいるわけじゃないよ。素直にそう思うの。私にはあなたが必要です」
「ここまで話したら悪魔だろうが天使だろうが人間なら抜け出せなくなるものだよ。だって僕は悪魔だろうと天使だろうと君の話を心行くまで聞いたんだ。悪魔の世界でも天使の世界でもここまでは聞いてはくれないだろう。うん、君がそう思うように僕だってそうだよ。矢張り僕は偽善者じゃない。いいものはいい。悪いものは悪い。しかし私の名に善の字があるからか、私は悪にはなりきれない。恐らく、これからもずっと私は悪にはなれんのだよ」
「いい名前。生まれながらのプレッシャーをうまくこなしてるあなたはすごい」
「私に天使の要素があるとはやはり思えないんです。あなたが天使なのはわかります。厳しい言葉は誰より優しいから、でしょう。でも私は闇を歩いていたいの。そんな場所で天使が生きられるとは思えないの」
「僕は天使だが闇を歩いている。闇とは悪魔のテリトリー。僕はそこで悪魔の仮面を被りいつもびくびくしながら緊張をし周りを仮面の下からキョロキョロ見て、この中の誰が悪魔の仮面を被っているだけの仲間(天使)なのかと探っている。君は『私、悪魔の仮面を被っているのよ』と無邪気に近づいてきたじゃないか。しかし仮面を取った君はまさしく中身も悪魔で、そんな最悪なケースだ。絶体絶命。だから今僕がやらなきゃならないことは違う悪魔に知られないように目の前の君(悪魔)を天使に改宗させることなんだ。でもね、大事なことは悪魔だろうが天使だろうが人間の魅力は変わらないということだよ」
「It's different! あなたが嗅ぎ付けたんでしょ、私の仮面の中の闇を。他の誰にも嗅ぎ分けられなかった匂い。私のこの心臓や肺や肝臓や小腸や膀胱やヘモグロビンから白と赤の血球にまでこびりついている匂いを。あなたが私を改宗させてくれるって? そんなことができるの?」
「どうだろうな。あるいは、私なら出来るのかもしれない。しかし不思議なものだ、確かにあなたは悪魔の仮面を被っている。しかし先程あなたが仮面を脱いだ時一瞬天使のように見えたのだ。ファーストインスピレーションとは恐いものだ。たった、たったの二秒でだ。その『人間』を決定してしまう。それも数十年話し込むよりも数倍深く決定的に決め込んでしまう。唯一、脳や感覚、野生が理性の入り込む余地なしに大手を振って歩ける瞬間なのだろう。いやしかし、実際のところ本当は君も天使になりたいんじゃないのか?」
「わからないです。いや、わからないです。偽善はいや。そんなことをするくらいなら傷つけて睨まれるほうがいい。だから、わからないです」
「交渉決裂なのかな。それでも僕はいつまでも君を離さない、天使に改宗させるまでは。これは僕の生き死にだからね。僕は偽善者なのかな。僕にはわからない」
「ねえ、お兄さん。いつの間にかあなたは私の大事なものになってる。たぶんあなたがいなきゃ私は今立っていられない。別に病んでいるわけじゃないよ。素直にそう思うの。私にはあなたが必要です」
「ここまで話したら悪魔だろうが天使だろうが人間なら抜け出せなくなるものだよ。だって僕は悪魔だろうと天使だろうと君の話を心行くまで聞いたんだ。悪魔の世界でも天使の世界でもここまでは聞いてはくれないだろう。うん、君がそう思うように僕だってそうだよ。矢張り僕は偽善者じゃない。いいものはいい。悪いものは悪い。しかし私の名に善の字があるからか、私は悪にはなりきれない。恐らく、これからもずっと私は悪にはなれんのだよ」
「いい名前。生まれながらのプレッシャーをうまくこなしてるあなたはすごい」