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prêt-à-porter

私が関わった人間は全て私の作品である

『鯉に恋』

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僕は女を見た。
初めてこの生き物たちを女なのだと認識した瞬間だった。それは僕にとって衝撃的だったし、男として宿命的であったかの様に思われる。
僕は一目惚れをした。
今になってはわかる事だが、其れは一目惚れだった。僕は今でも初めて女を見た時の事を鮮明に覚えている。もう既にその頃にはマスターベーションをして幾時か経っていたがその瞬間僕のペニスは勃起しなかった。もっと違う、下半身的というよりはもう少し上半身的な感覚であった事を記憶している。僕は上半身的な勃起をした。
其れがまさに一目惚れというやつだった。
女は割と阿呆面をしていた。無邪気でいて、まるで女がその場に本当は存在しないのではないかと思うくらい透明に見えた、向こう岸が見えるくらいに。
その頃は僕も限りなく透明に近かったと思う。僕はその時の感覚を恋愛だとは認識していなかったし、宙ぶらりんのまま其れを頭の片隅に置いておいた。
僕は17だった。いい歳だ。僕にもそんな歳があったかと思うと何だか不思議な気持ちになる。
僕はそれから18になるまでの、それが半年なのか一年なのか、はたまた三日なのかは覚えていないが、兎に角17から18になる間中その不思議な感覚をずっと僕の中に秘めておいた。
今の僕とは違い誰に言う事なく、只ひたすら誰にも触れられない(勿論僕にも触れる事ができなかった)空間に閉じ込めていた。
またはその感覚は僕の中で然るべき時を待つかの様に閉じこもっていた。
ジャン・コクトー恐るべき子供たち」に出てくる机の引き出しの様なところにだ。

僕はそれまでに恋らしき恋はしていた。しかし今思うとそれらはおママゴトだったかの様に思われる。
僕が正真正銘初めて恋をした瞬間は先程述べた様に一目惚れだったし、環境や条件が揃う訳でもなく突然僕を襲うものだった。
僕は其れからまた正真正銘の恋をした。あの瞬間は何度経験しても、また思い出してもいいものだ。そのスタートを告げる音が僕の上半身に伝わった時から徐々に下半身を経て、挙句糞の様に地面と一体化しそれはまた新たな木々や花々を生み、天へと伸びる。


僕は鯉を見た。庭の池には沢山の鯉がいた。しかし僕の目に映る鯉はただ一匹だった。それは生き物としての鯉ではなく、掛軸の、額縁の中にいる鯉だった。不思議だが僕の中に生ける鯉は唯その一匹だった。消え逝かない鯉、動かない鯉、モノクロの鯉、全体でくの字の鯉、口を開かない鯉、餌のいらない鯉、世界に一匹しかいない鯉、鯉、鯉。



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