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prêt-à-porter

私が関わった人間は全て私の作品である

掌編小説『Bombay Sapphire』

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2012年03月24日05:00

BARではJamiroquaiが流れていた。僕らは他愛もない話をしていた。僕は普段他愛もない話なんてしない。まるで無駄だからだ。そうは言っても僕自身所謂とても無駄な生き方をしていた。無駄なところが大事だなんていう生半可な哲学、そんなものそもそも哲学などではない、思想でもない。それは本当に情けない考え方だ。僕らはボンベイサファイアのジンライムをちびちびと飲んでいた。ジンとイギリスのバンドの組み合わせは相性がよかった様に思える。外は雨だった。銀座には雨がよく似合う。センチメンタルにもならずに馬鹿みたいにPOPにもならずに済む。まるでジンの様だ。ほとんど癖がない。そう考えると僕はテキーラの様に格好悪い。メキシコでしか受けない。もしかしたらメキシコでも受けないのかもしれない。 

僕は話し始めた。 
僕にはすきな女がいてね、話してわかる様なことではないのかもしれないけど、君になら伝わるかな、十年も前の話だが出会ったのは僕が23で女は19だった。女はロシヤ人とフランス人と日本人をスプモーニの様に混ぜた様な女だった。それが昨日夢に出てきたんだ。女は「黒人」になり、ドレッドヘアを後ろで結んでいた。大テーブルの向かいにいた女が僕にいきなり話しかけて来た。僕はほんの一瞬、誰だかわからなかった。でもすぐにその女だと気付けた。唇だけが僕の記憶のままだったからだ。何度かキスをしたその唇だけが僕の記憶の女と重なった。それ以外にはほとんど手掛かりなんかなかった。女は昔と何一つ変わらないでしょとばかりに接して来たわけでもなく、本当にそんな事全く意識していない様に自然に僕に話し掛けた。でもそのお陰か僕もほぼ違和感なく女だと認識が出来た。僕が女にいつか君の顔がぐちゃぐちゃになってもすきだ、と言った事を思い出した。大テーブルの前にいた女がその時に言った事を思い出せないが、女は本当に他愛もない事を酔っ払いの様な口調で言っていた気がする。僕が女を邪険に扱うのは肌が黒くなってしまったからでは恐らくない。僕は顔がぐちゃぐちゃになっても一度すきになった人を一生すきでいる様な気持ち悪い男だからだ。ただ女の何かがそうさせたのだと思う。女の話が僕の既に知っている様な事だったので僕は女の話を遮る様な形で微笑んだ。女は微笑んだ僕に向かって「昔と違うから?」と昔と同じ声で小さく言った。 


Virtual Insanity - Jamiroquai



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